細胞交通における糖認識分子の役割を調べることの一環として、移動性の細胞が細胞表面の糖認識分子を利用して能動的に生体局所を識別する機構について研究を行った。まず、マクロファージ上の糖認識分子であるMMGLの機能をマクロファージ上の他の細胞接着分子の機能と切り離して調べるため、マクロファージ以外の細胞に人工的にMMGLを発現させることを試みた。すなわち、マクロファージレクチン(MMGL)のcDNAを真核細胞用の発現ベクターに組み込み、マウスT細胞株CTLL-2およびマウスアロ反応性キラーT細胞株OE4にトランスフェクトし、安定なトランスフェクタントの樹立に成功した。MMGLの発現は、我々の作製したMMGLに対するモノクローナル抗体を用いてフローサイトメトリーおよびイムノブロットにより確認した。さらに、ラクトースを共有結合させた蛍光性のマイクロスフィアーを用いて、トランスフェクタント細胞上のレクチン活性の検出に成功した。 一方、モノクローナル抗体を用いたマウスの各組織におけるMMGL陽性マクロファージのマッピングは、ほぼ完了した。その結果、結合組織性のマクロファージに選択的に発現していることが判明した。例えば、肺組織においては、血管や気動周囲の結合組織内への局在化が認められ、いわゆる肺胞マクロファージを含め、肺胞領域のマクロファージは陰性であった。ところが、マウス卵巣癌OV2944-HM-1細胞の転移結節を有する肺組織では、転移結節内に多数のMMGL陽性細胞を認めた。この肺組織内における選択的な局在化の変化において、MMGLが関与している可能性を調べるため、前述のCTLL-2トランスフェクタントを蛍光標識しOV2944-HM-1細胞の転移結節を有するマウスに投与すると、ベクターのみのトランスフェクタントと比べ、転移結節内への移行性が高い事が明らかとなった。
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