免疫担当細胞のトラフィッキング(交通)は、白血球の炎症局所での浸潤、リンパ球のホ-ミングなど生理的な重要性を持つ一方、病理的にも癌細胞の転移や、自己免疫疾患、アレルギー疾患にかかわる免疫細胞の標的臓器への移動など明かにすべき課題が多い。細胞の交通に糖結合性タンパク質(レクチン)と糖鎖の相互作用が不可欠な要素であることが近年確立されてきた。本研究では、マウスのマクロファージ上に存在するカルシウム依存型レクチン(MMGL)に焦点を合わせ、異なった糖鎖を発現した細胞が組織内でMMGLを発現したマクロファージにより受動的に選別される可能性を検討すると共に、MMGLを発現した細胞が能動的に生体局所を識別する機構の研究を行うことを目標とした。 これらの目的に添って(1)MMGLに対するモノクローナル抗体の作製のため、レクチン活性を簡便に評価できるELISA法によるアッセイ系を新たに開発した。(2)MMGLに対するラットのモノクローナル抗体を複数作製した。(3)作製したモノクローナル抗体を用いてマウスの各組織におけるMMGLの発現を生化学的・免疫組織学的手法により統計的に調べ、結合組織内の組織マクロファージにおける選択的な発現を明らかにした。(4)MMGLのcDNAを発現ベクターに組み込み、マウスT細胞株CTLL-2にトランスフェクトした。MMGLの発現をモノクローナル抗体を用いて確認した。(5)糖鎖性の腫瘍関連抗原の一つであるTn抗原の免疫担当細胞による認識において、マクロファージ上のMMGLが関与することを細胞生物学的に明らかにした。(6)マウス卵巣癌肺転移巣内の腫瘍浸潤マクロファージにおいて、MMGLの発現が認められることを明らかにした。(7)MMGLをトランスフェクトしたT細胞株が、マウス卵巣癌の肺転移巣に選択的に移行することを認めた。
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