(1)アスコルビン酸輸送系の分子的解明に向けて、アスコルビン酸(AsA)結合活性を指標とし、ラット腎臓膜画分の結合特性を解析した。AsA結合成分はCHAPSで効率的に可溶化され、その可溶化標品のAsA結合活性は非標識AsAの添加で競合的に阻害され、また高濃度のデヒドロアスコルビン酸でも阻害されたが、グルコースやグルコース輸送阻害剤では全く阻害されなかった。さらにこの可溶化標品に結合するリガンドの化学形が還元型AsAと同定されたことより、AsA特異的な結合蛋白の存在が強く指示された。(2)CHAPS可溶化標品中のAsA結合成分はゲルろ過により効率よく分離され、分子量は約10万と推定されたが、それ以外のクロマトグラフィーでは活性は著しく低下した。この原因には補助因子の脱落、構造不安定化などが考えられたため、リン脂質添加による膜再構成実験も行ったが現在のところ活性の回復は見られず、失活理由を説明することはできなかった。今後の精製に向けて高発現組織の選択、可溶化後及び精製時の安定化の問題等を克服する必要がある。(3)消化管におけるAsA動態を胃内における分泌、小腸における吸収の面から解析し、興味ある事実を見出した。一つは胃内AsA分泌がムスカリン性コリン作動神経支配にあることを初めて明らかにしたことであり、もう一つは小腸におけるAsA吸収がニコチンの前投与で著しく影響を受けることを見出したことである。これにより空腹時の胃内AsA濃度の著しい高値が説明され、胃内AsAの生理的重要性が示唆された。今回は環境要因としてたばこ成分を取り上げたが、各種の環境汚染物質がこの輸送系に及ぼす影響と種々の疾患の関わりを明らかにすることは今後大きな意義をもつ。小腸粘膜由来IEC-6細胞がAsA特異的な取込みを示すことを認めたので、この系を用いて環境要因の生体への影響評価システムを構築するようさらに研究を展開していく。
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