グルタチオントランスフェラーゼP(GST-P)遺伝子の発現は、ラット肝化学発癌において顕著に上昇する。その機構を解明するため、5'上流領域を解析し強力なエンハンサーGPE1を-2.5kbに、サイレンサーを-300bpにみいだした。本研究においてこれらの機能に関して以下のことを明らかにした。 1。トランスジェニックラットを用いた化学発癌実験により、GST-P遺伝子の5'制御領域は染色体の位置に無関係に癌化に伴い活性化されることを明らかにした。さらに詳細な変異体を導入したキメララットを作製し、検討したところ、GPE1のみでGST-P遺伝子を活性化しうることを明らかにした。 2。サイレンサー内には数種のエレメントがあるが、その中でも重要なGPS4に結合する転写因子を精製し、アミノ酸配列を決定した。興味あることにNF1(Nuclear Factor1)様の蛋白質であることが明らかとなった。NF1は複製にも働く活性化因子として知られているが、その機能の詳細は不明であり今後の課題である。 3。サイレンサー内の他のエレメントGPS1はC/EBPβによって制御されていることをすでに明らかにしている。C/EBPはファミリーを形成していることから、これらの癌化における変動について検討した。その結果、C/EBPαとC/EBPβの微妙なバランスがGST-P遺伝子のサイレンサーに重要であることを明らかにした。 4。サイレンサー結合蛋白質の一つであるLIPはこれまで転写活性化ドメインを欠き転写活性化因子と競合するだけと考えられてきたが、より積極的な作用すなわち、直接的に転写を抑制することを明らかにした。またDNA結合ドメインを持たなくても転写を阻害した。これは塩基配列特異的転写因子が、条件によっては非特異的因子として働く可能性を示唆している。
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