我々は、肝再生に重要な役割を果しているヒト肝細胞増殖因子(hHGF)の産生誘導について培養細胞を用いて研究している。本研究ではヒト皮膚線維芽細胞によるhHGF産生に及ぼす種々のサイトカインやその他の生理活性物質の作用を調べた。その結果、サイクリックAMP(cAMP)情報伝達経路活性化物質がhHGF産生を著しく促進することを見出した。72時間の培養期間中に本細胞によって産生・分泌されるhHGF量は、コレラトキシン及びフォルスコリンを添加すると、最大それぞれ対照の8倍、6倍にまで促進された。これら二つのアデニル酸シクラーゼ活性化試薬によるhHGF分泌促進と細胞内cAMPレベル増加の用量反応曲線は共によく一致した。hHGF分泌はまた、8-ブロモ-cAMPやジブチリルcAMPによってもそれぞれ9倍、10倍にまで増加した。さらにPGE_2やエピネフリンもhHGF分泌を促進した。hHGF mRNAレベルはこれらいずれの試薬によっても添加後5、10時間では変化が認められないものの、15時間では増加し、以後少なくとも48時間までは高いレベルが維持された。cAMP経路の活性化によるこのようなhHGF遺伝子発現並びにhHGF産生の促進は、4人のヒトから調製した皮膚線維芽細胞やMRC-5ヒト胎児肺線維芽細胞のいずれにおいても程度には差があったが認められた。上記試薬によるhHGF産生・分泌の亢進は、TGF-β1及びデキサメタゾンによって強く阻害され、PKC活性化ホルボールエステルであるPMAの促進作用に対する阻害効果と比べるとデキサメタゾンによる抑制が特に著しかった。ラットでは、部分肝切除後、残余肝のHGF mRNAレベルが12時間前後でピークに達するが、今回の結果は術後速やかに増加するPGE_2がこの上昇に関与する可能性を示している。
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