我々は、肝をはじめ腎や肺などにおける組織障害後の再生、修復に深く関与すると考えられているヒト肝細胞増殖因子(hHGF)の産生誘導について培養細胞を用いて研究している。今年度の研究では、ヒト皮膚線維芽細胞によるhHGF産生に及ぼす種々のサイトカイン並びにその他の生理活性物質の作用をさらに詳しく調べた。その結果、様々な増殖因子がhHGF産生を著しく促進することを見出した。これらにはEGF、PDGF、bFGF、aFGF及びTGF-αが含まれ、いずれも本細胞の増殖並びにhHGF産生を強く促進した。48時間の培養期間中に本細胞によって産生・分泌されるhHGF量は、EGF、POGF及びbFGFを添加すると、ng/ml及びng/mg細胞タンパク質のどちらで表しても増加し、後者で表した場合、最大それぞれ対照の12、6 及び5倍にまで促進された。これらのうち二つの増殖因子を最適濃度で共存させると、いずれの場合も相加効果が認められた。一方、TGF-βはDNA合成を促進したが、hHGF産生に対しては逆に強く抑制した。上記増殖因子はhHGF遺伝子発現も著しく促進し、その効果は添加後9時間以降、少なくとも60時間まで認められた。これらの増殖因子によるhHGF産生・分泌の亢進は、C-キナーゼ(PKC)活性化ホルボールエステルのPMAやcAMP上昇薬によるそれと同様、TGF-β1及びデキサメタゾンによって強く阻害された。また、高濃度PMAの前処理によってPKCをダウンレギュレーションさせても、上記増殖因子の効果は消失せず、逆に著しく増強された。従って増殖因子のhHGF産生促進作用にこれらの因子が持つPKC活性化能は関与していないと思われる。部分肝切除後、残余肝のHGF mRNAレベルが12時間前後でピークに達するが、今回の結果は術後4時間以降に遺伝子発現が増加するaFGFがこの上昇に関与する可能性を示している。
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