[目的]栄養素として必須金属塩の細胞内分布を観察する為には、通常の組織切片の固定および染色法では、金属塩自体が溶出して失われる危険がある。従って、直接凍結試料調製が必須であり、また、金属塩の微細な分布を精査する為には、X線分光器付き電子顕微鏡による観察が有効である。本研究は、必須金属マンガン(Mn)の生理的作用の重要性に基ずき、特に、Mnが集積し易いすい臓内の分布状態を上記の方法を用いて検討した結果、新しい細胞内金属動態に関する機能形態的知見を得た。 [試料]生後4週齢ラットに塩化マンガン溶液20mg/mlを0.25mlずつ、朝夕一日2回、3週間腹部ないし皮下に注射した。動物を麻酔下脱血致死後、すい臓を摘出し、急速凍結固定装置(JEOL)を用いて凍結し、CRYO NOVA-LKBで薄切した。クライオトランスファーホルダーを用いて、JEM-2000FX内で凍結乾燥し、検鏡およびX線微量分析を行った。 [結果]1.Mnは細胞内全体に分布するのではなく、細胞質中のリソゾームと類似の大きさと電子密度を持つ顆粒内に存在することが判明した。Mn含有顆粒は長楕円型をなしており、いわゆる結晶性ではなかった。また、Mnは高濃度に凝縮されたイオウ含有成分と共に存在した。 2.このMn塩塊は、細胞質内にのみ存在した。従来、生化学的方法では、細胞核及びミトコンドリア内にMnが高濃度に検出された。しかし、電子顕微鏡による観察では、Mnは細胞質の限局された部位に顆粒状をなしていた。 3.Mn塩塊が細胞質内に散在するのではなく、一定の局部に集中している電顕像から判断して、このMn塩顆粒の形成は、細胞の規律のある生理機能の結果であると推定される。しかし、この生理機能が如何なるものであるかは未だ明確にされていない。 本研究では、今後、Mn顆粒中に含まれるイオウ含有物質の解明を試みる。更に、この過剰金属塩の細胞内顆粒の形成が、細胞にとってある種の解毒作用である可能性が高いと推定し、引き続き、その証明を試みる。
|