マンガン(Mn)は生体の必須微量元素である。しかし、生体が過剰Mnに曝露したり、あるいは、Mn欠乏状態になった時に、如何なる防御機構を備えて、自らを保護するかに関しては全く解明されていない。本研究は、過剰Mn投与ラットを用いて、生体が如何に有害量の金属を無毒化するかを知る上の手掛かりを得ようとしたものである。 生後4週令ラットに塩化マンガン溶液(20mg/ml)0.25mlずつ、朝夕一日2回、3週間腹部ないし皮下に注射した。ラットを麻酔下脱血致死後、膵臓を摘出し、急速凍結固定装置(JEOL)を用いて凍結し、CRYONOVA‐LKBで薄切りした。クライオトランスファーホルダーを用いて、JEM‐2000FX内で凍結乾燥し、検鏡及びX線微量分析を行なった。一方、ラットの各臓器を超遠心法により細胞分画し、それぞれの画分を放射化分析に供し、Mn含量を測定した。細胞の重要画分はマーカー酵素活性測定によって同定した。対照臓器として、肝臓、腎臓、甲状腺等を用いた。 結果として、過剰Mnが膵臓細胞内に顆粒状を呈して存在していることが判明し、更に、Mnを含む顆粒がライソソームであることが明らかとなった。細胞は、外部由来の過剰量Mnを細胞内に拡散させないような防御機構を発揮して、本来の生理機能をMnに曝露しない工夫を有するものと推定される。本研究の成果は、細胞内の有害金属の無毒化と排除機構について新しい考え方を導入し、それを証明したことである。
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