イヌの静脈内にアドレナリン作動性alpha受容体(alpha受容体)アゴニストであるフェニレフリン(PHE)を持続注入すると、コリン作動性ムスカリン様受容体(M受容体)を介するアセチルコリン(ACh)の降圧作用が長時間抑制される。この興味深い現象の詳細を明らかにするため、この1年間様々な角度から検討を行ってきた。以下にその概要を記す。 1)本現象発現に関する種差について:本現象はイヌでは非常に再現性よく観察されるにも関わらず、ラット、モルモット及び家兎等の齧歯類では観察されず、明確な種差が存在する。2)本現象発現のための条件について:AChに対する反応性低下の程度はPHEの単位時間当り投与量と投与時間の両者に依存し、投与条件によってはAChの反応は数百倍高用量側へシフトする。他のalpha作動薬の持続注入でも同様の現象が観察されるが、アンギオテンシンIIではその程度が小さい。従って、alpha受容体刺激と昇圧の両者が本現象の発現に重要と考えられる。3)M受容体作動薬に対する反応性低下の機序について:(a)コリンエステラーゼに感受性の低いカルバコール及びメタコリンを用いた場合、AChのような著しい反応抑制は認められない。(b)PAE持続投与後のACh反応性の低下は、コリンエステラーゼ阻害薬のネオスチグミン処置で抑制される。(c)本現象は、AChを静脈または右心房に投与した場合に観察されるが、左心房に投与した場合は観察されない。(a)〜(c)より、肺におけるコリンエステラーゼ活性の上昇が本現象を発現させる主な原因と考えられる。 以上のように、本現象のメカニズムのうち、M受容体の側の問題はかなり明らかになってきたが、何故alpha受容体刺激または昇圧がコリンエステラーゼの活性を上昇させるのかという問題が今後の課題として残されている。
|