本プロジェクトで独自に開発した、スフィンゴ脂質全体の代謝変動を同時に定量分析できる系を用いて、前年度に引き続いてヒト上皮性悪性腫瘍(食道扁平上皮癌および大腸腺癌)培養細胞株のin vitroでの分化誘導現象早期におけるスフィンゴ脂質のde novo合成変化を解析した。その結果、ヒト急性前骨髄球性白血病細胞株HL-60細胞の分化誘導現象におけるのと同様、特徴的な変動を示したのはスフィンゴ糖脂質、特にガングリオシド合成系で、ネオラクト系ガングリオシドの合成制御およびガングリオ系ガングリオシドG_<M3>の生合成の亢進が観察された。スフィンゴミエリンの変化は観察されなかった。さらに、このガングリオシド合成変化を実現するガングリオシド生合成調節物質で上記細胞株を処置したところ、分化・アポトーシスが誘導された。ガングリオシドのde novo合成変化は明瞭な形態学的変化に先駆けて起こった。ヒト上皮性悪性腫瘍細胞株の分化誘導活性を有するガングリオシド代謝調節物質は、上記のオガングリオシド合成変化を引き起すものに限られることが判明した。一方、C2セラミド(N-acetyl sphingosine)には分化誘導活性は認められなかった。ガングリオシド代謝調節物質による、がん細胞の分化誘導はヒト神経膠芽腫細胞株でも認められた。以上の結果より、がん細胞の分化には、特定ガングリオシドパターン変化が必須であることが強く示唆された。また、post-transcriptionalなレベルでのガングリオシド発現調節が、がん細胞の分化誘導剤開発の有力なターゲットになりうる可能性が示された。
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