研究概要 |
マクロファージの細胞表面に存在するFc-receptor(Fc-R)を介した羊赤血球の貧食能を活性化の指標にして,リポソームによるマクロファージ活性化機構について検討を加え,これまでに以下の結果を得ている.i)リポソームは直接マクロファージを活性化できない,ii)リポソームによるマクロファージの活性化にはB-細胞と血清成分が必要であった,iii)この血清成分はリポソーム処理したB-細胞のgalactosidaseおよびglucosaminidaseによって糖鎖の修飾を受け,糖鎖末端にmannose残基を露出したα_2-macroglbulin(α-MG)であった,さらにiv)糖鎖修飾を受け糖鎖末端にmannose残基を露出したmodified α-MGは細胞表面のmannose-receptor(Man-R)を介してマクロファージに結合した後,何らかの細胞内情報伝達機構を介しFc-R数を増加させ貧食能が活性化されることが示唆された。 本年度,リポソームはどのような機構でB-細胞と特異的に相互作用し,膜結合性のgalactosidaseおよびglucosaminidase活性を制御し,血清中のα-MGをマクロファージ活性化能を有するmodified α-MGへと変化するのか?この点に関し検討を加え以下の結果を得た。(1)B-細胞が他の免疫担当細胞と異なる性質の一つとして,細胞表面に抗体(sIgM)分子を有していることが挙げられる。そこで,リポソームのB-細胞に対する特異性,およびglycosidase活性の制御機構をsIgM分子に注目し検討した。抗マウスIgM抗体で処理したB-細胞によるmodified α-MGの産生は抑制され,リポソームによるマクロファージのFc-Rを介した貧食能の活性化は阻害されたことから,リポソームとB-細胞との相互作用にsIgM分子が重要な役割を果たしていることが強く示唆された。(2)B-細胞膜結合性のglycosidase活性におよぼすリポソームの影響について検討したところgalactosidaseおよびglucosaminidaseはいずれも活性化を受け,さらにこれら酵素の活性化は抗マウスIgM抗体の添加により阻害されたことからリポソームによるB-細胞膜結合性glycosidaseの活性化にsIgM分子が深く関わっていることが示唆された。(3)galactosidaseおよびglucosaminidaseのB-細胞膜における存在様式について抗マウスIgM抗体を用いてB-細胞膜lysateの免疫沈降を行ったところ,両酵素の活性はIgMとともに沈降する画分に認められた。これらの結果はgalactosidaseおよびglucosaminidaseいずれもsIgM分子に会合してB-細胞形質膜に存在することを示唆するものである。(4)リポソームによるglycosidaseの活性化機構を膜のダイナミックな動きを捕らえることが可能なESRを用いて検討したところ,リポソームはB-細胞膜の比較的表面に近い部分の膜流動性を顕著に低下させることが解った。 以上のことからリポソームによるB-細胞膜glycosidaseの活性化機構を以下のように推測した。リポソームは細胞膜表面のIgM分子を介してB-細胞と相互作用し,膜の流動性を低下させ,IgMと会合してB-細胞形質膜に存在する2種のglycosidase,galactosidaseおよびglucosaminidaseを活性化するものと考えられた。これらの結果は日本薬学会第114年回,第16回生体膜と薬物の相互作用シンポジュウムで発表するとともに,Immunologyに投稿中である。
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