研究概要 |
リン脂質の2位の脂肪酸エステル結合をアミド結合に置換したカルボン酸アミド型基質アナログとPLA_2の結合は,pHを酸性にすると弱められるが,ホスホン酸エステル結合に置換した遷移状態型基質アナログは,pHを酸性にすると強められる.この違いは,それぞれの基質アナログとPLA_2の結合に,触媒基His 48のプロトン化状態が影響するためである.そこで,これら2つの基質アナログの特性を同時に備え持つ基質アナログとしてリン脂質の2位をスルホン酸アミド結合に置換した基質アナログを合成し,PLA_2に対する結合を調べた.その結果,この基質アナログは,中性pHにおいて,カルボン酸アミド型基質アナログより5倍程度結合定数が低かった.しかし,His 48がプロトン化するような酸性pHでは,中性pHと同程度の結合定数であった.このように,スルホン酸アミド型基質アナログは,広いpH領域で有効にPLA_2と結合することが明らかになった. 一方,マノアライドアナログは,Lys残基を修飾することでPLA_2を不活性化する.PLA_2分子内には,触媒作用を行う触媒部位と,基質ミセルを認識する界面認識部位が酵素活性に重要な役割を担っていいる.そこで,どちらの部位がマノアライドアナログによるPLA_2の不活性化に関与するのかを調べた結果,膵臓およびコブラ毒PLA_2では界面認識部位のLys残基の修飾が関与し,ウミヘビ毒,ハブ毒,クサリヘビ毒PLA_2では触媒部位に加え,上記の2つ以外の部位が不活性化に影響することがわかった.一方,マムシ毒PLA_2の不活性化には上記の2つの部位は関与しないことが明らかとなった.このように,マノアライドアナログによるPLA_2の不活性化には触媒部位や界面認識部位以外のLys残基の修飾も関与することが考えられた.これは,触媒部位の裏側などに存在するLys残基がマノアライドアナログによって修飾され,PLA_2の立体構造を変化させた効果によることが推測される.
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