高等動物細胞の染色体複製機構はこれまでDNA腫瘍ウイルスをモデルとして解析が進められてきており、ウイルスDNAの複製開始機構・新生DNA鎖の伸長機構などについて詳細な知見がすでに得られているものの、宿主である高等動物細胞の染色体複製機構の研究は、十分な知見は得られておらず、とりわけ染色体複製開始点の解析は殆どなされていない。複製開始反応が一定の箇所から開始するかどうかさえ一致した見解が得られていないのが現状である。この様な根本的な疑問に解答を与えるべく、本研究を実施した。本年度は、最初に新生DNA鎖の伸長反応を特異的に阻害し、複製開始点のごく近傍のみを特異的に標識し、標識されたDNAを濃縮単離する系の確立を試みた。高度に同調した細胞に紫外線照射を行ない、新生DNA鎖を蓄積を試みたが、この際、紫外線によるDNA傷害の修復機構に欠陥をもつ遺伝病細胞を用いる必要があった。紫外線照射した後、S期のごく初期で細胞を標識することにより、新生鎖のみを選択的に標識することができ、その長さをアルカリアガロースゲル電気泳動法で解析し、短鎖の蓄積を確認した。現在、標識されたDNAを濃縮する系の検討を行ないクローンの単離を試みている。また、DNA型腫瘍ウイルスSV40のin vitro複製系によるモデル実験も行ない、複製開始点付近が特異的に標識されることも確認した。今後は複製開始領域をクローニングしその塩基配列を決定しモチーフの検索を行うとともに、その生物学的活性についても検討してゆきたい。
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