高等動物細胞の染色体複製機構はこれまでDNA腫瘍ウイルスをモデルとして解析が進められてきており、ウイルスDNAの複製開始機構・新生DNA鎖の伸長機構などについて詳細な知見がすでに得られているものの、宿主である高等動物細胞の染色体複製機構の研究は、十分に知見は得られておらず、とりわけ染色体複製開始点の解析は殆どなされていない。複製開始反応が一定の箇所から開始するかどうかさえ一致した見解が得られていないのが現状である。この様な根本的な疑問に解答を与えるべく、本研究を実施した。本年度は、最初に新生DNA鎖の伸長反応を特異的に阻害し、複製開始点のごく近傍のみを特異的に標識し、標識されたNDAを濃縮単離する系の確立を行う一方、出芽酵母ゲノムの解析を行い、ARS(autonomous replicating sequence)モチーフがどの程度の頻度で出現するかを解析した。その結果、800塩基対あたり一個のARS配列が出現し、従来、言われていた20-30KBに一個の複製開始点が存在するという知見を併せ考えるとき、何らかの選択機構が存在することが示唆された。 さらに、ヒトゲノムの塩基配列データの解析をも進めているが、今後、最低限複製開始点が複数個出現することが確実であると思われる長さの領域について情報科学的解析を行い、複製開始点としての活性を持つことが期待される部分を同定、その生物学的活性を調べるアプローチをも行ってゆきたい。
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