平成5年度には、ポリエステル布レプリカ法を用い、カルジオリピン(CL)の生合成前駆体と考えられるホスファチジルグリセロール(PG)の生合成初発反応を触媒するホスファチジルグリセロリン酸合成酵素(PGS synthase)欠損温度感受性変異株(PGS-S)を分離し、その性状解析を行った。その結果、PGS-Sを非許容温度下で培養すると、総リン脂質に占めるPG、CLの割合は野性株の10%、30%に減少し、同時に、ミトコンドリアの形態と機能が異常となることを明らかにした。これらのことから、CLがミトコンドリア機能発現に必須であることが示唆された。 平成6年度は、PGS-S細胞のミトコンドリア電子伝達系について検討した。細胞ホモジネートを用いてミトコンドリア電子伝達系の種々の活動を測定した結果、非許容温度で培養したPGS-S細胞ホモジネート中のロテノン感受性NADHオキシダーゼ活性が野性株の約50%に低下していた。さらに、電子伝達系の中でもロテノン感受性NADH-ユビキノンリダクターゼ活性(コンプレックI)が野性株に比べ約1/5に低下していた。PGS-Sの復帰株では野性株と差はなかった。以上の結果から、CLがミトコンドリア電子伝達系で重要な働きをしていることが明らかとなった。 PGS-Sを用いてPGP synthase遺伝子のクローニングを試みた。HeLa細胞及びCHO-Kl細胞のゲノムDNA、CHO-Kl細胞のcDNAをCa^<2+>ホスフェート法やリポフェクション法でPGS-S細胞に導入し、非許容温度で増殖するトランスフォーマントの選択を行った。現在のところまだ目的のトランスフォーマントは得られておらず、研究を継続中である。なお、細胞分画法によりPGP synthaseはミトコンドリアに局在することを明らかにすることができた。
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