酸素由来のフリーラジカルが、どのように神経系に傷害を与え、生理機能に影響を及ぼし、脳の老化に関連するかを明らかにする目的で本研究を行った。その結果次の結果が得られた。 100%酸素環境下で飼育したラット脳は、血管外壁の星状細胞が膨潤し神経細胞核の変形、ミトコンドリアの膨潤、神経末端におけるきわめて異常なシナプス顆粒の蓄積を観察した。この変化は、神経伝達機能に障害を与えているものと推定され、シナプスの刺激による、アセチルコリンの流出を調べた。その結果、酸化的ストレスにより、生理的な流出量よりも低下した。この原因が、膜機能の低下であるかどうかを調べた。グルコースをマーカーにした膜透過性は、酸化的ストレスにより、大きく亢進し、ストレスを与えないラットの老化でも同様に変化した。また膜表面の流動性は、老化、酸素暴露ともに低下し、膜内部では、逆に亢進した。このような膜物性の変化が、膜中の生化学的変化に起因しているかどうかを調べた。シナプス膜の過酸化脂質は、老化に伴い増加し、酸素暴露でも、さらに大きく増加した。したがって、膜の過酸化が、膜機能変化を起こさせているものと推察された。膜構成不飽和脂質の含量は、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸が有意に減少した。老化、酸化的ストレスによる抗酸化防御系の変化を調べたところ、どちらも、ビタミンEの含量が低下し、抗酸化酵素群では、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ活性が上昇し、スーパーオキシドジスムターゼ活性が低下した。このことは、神経系における、老化のフリーラジカル説を支持しており、注目される。このような神経末端機能の酸化障害は、抗酸化剤であるビタミンEで抑制された。また、ビタミンEは、生理的条件下で、グルタチオンペルオキダーゼを誘導する活性もあることが明らかとなった。
|