研究概要 |
血流滞留性や動脈硬化病巣に蓄積した脂質類の可溶化能を増強した硫酸化シクロデキストリン誘導体を構築し、動脈硬化病巣からの脂質類の除去促進に関する基礎的検討を行った結果、以下の知見を得た。 1)α-、β-、γ-シクロデキストリンの非晶質誘導体の硫酸エステル化体あるいはスルホアルキル化体を高収率・高純度に調製し、生体内脂質類(コレステロールおよびそのエステル類、リン脂質,トリグリセリドなど)の可溶化能をin vitro条件下で比較検討した結果、硫酸エステル化体よりも立体障害の少ないスルホアルキル化体が脂質類の可溶化能に優れることが明らかとなった。 2)血清脂質分画と上記シクロデキストリンとの相互作用を水系ゲル濾過カラムを装着した高速液体クロマトグラフィーを用いて検討した結果、硫酸化シクロデキストリンはカイロミクロンや超低比重リポ蛋白と強く相互作用することが明らかとなった。 3)硫酸化シクロデキストリンをラットやウサギに非経口的に大量投与した場合の臓器障害性や局所組織障害性は、天然シクロデキストリンや他の硫酸化多糖類よりも低かった。 4)高コレストロール食を摂取した外因性動脈硬化症モデルおよび肝臓のLDL受容体が遺伝的に欠損した先天性動脈硬化動物モデルを用いた検討において、硫酸化シクロデキストリンを静脈内に長期間投与すると、血中脂質レベルに顕著な変化はみられなかったが、動脈硬化病巣の退縮が観察された。 これまでに、受容体の介在なしに動脈硬化病巣から脂質類を除去し、体内の再分布や体外への排泄を促進する試みは例がなく、本研究で得られた知見は新しいタイプの抗動脈硬化薬の研究開発や血管形成術後の再閉塞防止策を確立する上でも重要な成果であると考えられる。
|