今後の保健、医療、福祉は、受益者の多様な要請に、質の高いサービス(適時性、敏速性、正確性、緻密性、責任性、継続性など)を、限られた資源で有効に行うことが基本課題である。しかし、従来の医学教育は、このような経済性を加味した、医療の運営管理能力を養おうとする系統的な教育課程が乏しかった。この研究は、従来の基礎、臨床医学に加え、システム科学の技法を応用してこの分野を実践的に教育する方法を研究し、その体系化をめざしている。 従来の医学教育技法は、全体講義や一堂に会した実習形態が主流であった。本研究では小グループによるフィールドワーク(附属病院を「病院」のモデルに、運営管理部門の実態を調査、公的診療所を拠点とするモデル地域の医療実習)を主体とする。さらに、極めて限定された教育時間で効果をあげるため、研究者が過去の医学教育研究において試みてきた、「構造化機能関連図法」と名付けた作図による発想の展開技法を取り入れた。これは、解決すべき目標設定を想起した後、それに係わる要素をKJ法により洗い出し、想起した要素を階層化、要素間の位置関係を考慮しながら、連携する方法・様式を設定し、目標を達成する過程を作図していくシミュレーション技法である。 教育内容は、総論的には医師として「受益者の医療」「医療チームの中での医師の立場」「他の医療職の異なった立場を理解して、三者の協調関係を形成して目標に到達できる」医師の能力に対する具体的テーマを設定した。これによって「自ら行う医療の質の確保」と「組識の合理的な運営管理」に必要な能力を養う、実習に基づいた多角的、自己発見的な教育システムの確立を目指したい。
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