研究概要 |
造血器腫瘍において、免疫グロブリン・T細胞受容体の遺伝子の単クローン性再構成の有無が検索が可能となっている。しかし、これらは、単クローン性の証明手段として有用であるとしても、所属分化経路や成熟度の評価には、未知の問題が含まれる。種々の形質検索で解釈できず、遺伝子再構成検索で結論が得られる状況は極めて希なことも判っている。ボルテイモアらは、再構成作用を惹起する分子の遺伝子を単離し、リコンビナーゼ活性化遺伝子(RAG-1)と名付けた。RAG-1遺伝子発現のヒト造血細胞及び造血器腫瘍での分布の既知なものは僅かに過ぎない。このRAG-1の発現分布のRT-PCRによる探索を企図した。 まず、31種類のヒト株化造血器腫瘍細胞について検索し、未分化段階由来のリンパ球系細胞においてのみ発現が認められ、成熟段階由来のリンパ球系細胞やHodgkin株細胞では検出されないことを確認にて、設定したプライマーの条件などが十分に的確であることを確認した。次に、45例の新鮮腫瘍細胞について検索した。B系統(23例)では、CD19+10-20- 及びCD19+10+20-段階で強い発現があり、CD19+10+20+の段階まで成熟すると弱い程度にしか発現が認められなかった。T系統(22例)では、CD7+5-2-,CD7+5+2-,CD7+5+2+3-4-8-,などの前胸線段階では、RAG-1発現は認められなかった。胸線段階(CD3±CD4+8+)では、強い発現が認められ、CD3+4+8-の段階では減弱していた。一般に、前胸腺段階では、T細胞受容体遺伝子の再構成について、δ錯やγ錯までしか再構成は進んでおらず、β錯遺伝子は胚細胞型のままであり、胸腺段階に至って初めて、β鎖遺伝子の再構成が起こる。従って、今回の結果からは、(1)造血器腫瘍細胞のRAG-1発現は、由来の分化段階に応じて維持されていて、造血細胞分化地図作製上、RAG-1のような形質についても腫瘍細胞が有用らしいこと、(2)RAG-1のT細胞受容体遺伝子再構成への関与は、β錯の場合と異なり、δ錯やγ錯については、少なくとも量的に限られているらしいこと、が分かった。特に、(2)は、今後確定すべき新知見である。
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