血小板βアミロイド前駆体蛋白質(APP)の機能とアルツハイマー病(AD)および脳血管傷害性痴呆(VD)の診断と両疾患に対する血管障害の関与について研究を進めている。本年度は特に脳血管障害部位での血小板の活性化とそれに伴うAPPの血小板表面への発現などを病態検査学的に明らかにすることができた。 血小板の活性化を検出するマーカーとしてのフローサイトメトリー(FCM)を用いた高感度測定法は、ほとんどない。我々は、血小板活性化が明らかに起こると考えらる疾患群での患者活性化血小板由来マイクロパーティクル表面を抗APP抗体などで染色し、FCMで解析した。その結果、脳梗塞患者などにおいてAPPの有意な増加を認めるとともに、α顆粒成分であるP-selectin(CD62P)と相関した動きを発見し、これらが中枢における病態の進行に関与することを示唆した(本論文は下記のとおり掲載されている)。 一方、生体内の血管障害の程度を数値化できるモデルとして、脳血管障害の成因の1つである動脈硬化による血管障害の患者群を選定した。すなわち、冠状動脈の傷害の程度をアンギオグラフィーで定量し、その結果と患者検体の血小板活性化を比較した。その結果、冠状動脈硬化の重症度が高い場合に患者血小板表面マーカー(CD62P、CD63)の発現が多いことが明らかとなった。なおこれらの患者では第XI因子活性化の亢進も起こっている(本論文はThrombosis and Atheriosclerosisに投稿中である)。 我々はアルツハイマー病の病因と深く関与した血小板からAPPをすでに分離し、このものが凝固第XI因子活性を阻害することを報告しているが、上記の結果はこのAPPが通常の血小板活性化でもその表面に発現し、さらに一部は遊離されないで、表面に残存する可能性を示しており、これらの点を考慮しADとの鑑別が重要であるVDの指標を含め検討する必要があり、今後さらに検討を加えていきたい。
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