研究概要 |
今までの当グループによる研究から、血小板由来細胞傷害因子として、活性化血小板が遊離する極めて失活しやすい低分子量の物質が主要な働きをしていることが予想されていた。そこでそのような性質をもつ物質として活性酸化窒素(NO)とthromboxaneA2(TXA2)に焦点を当てて実験を遂行した。NOの合成をNG-nitro-L-arginineで阻害しても血小板の癌細胞傷害反応にはなんら影響が見られなかった。TXA2の合成阻害剤である acetylsalicilic acid,imidazoleは細胞傷害反応を顕著に抑制した。TXA2合成阻害剤の効果は、血小板のみならず、標的癌細胞を前処理しても認められた。種々のTXA2のアナログ(PTA2,U44092,CTA2)は、血小板の細胞傷害活性に感受性の癌細胞株K562とLU99Aには細胞傷害活性を示したが、非感受性株MIA PaCa-2とMo1t4には傷害作用を及ぼさなかった。 TXA2の分解産物であるTXB2はいずれの癌細胞株にも細胞傷害活性を示さなかった。細胞傷害活性を示す濃度のCTA2をK562に作用させると細胞質内Caイオン濃度の上昇が認められた。以上の実験結果より、血小板による癌細胞傷害反応には、血小板の産生するTXA2が重要な細胞傷害因子として関与している可能性、標的細胞自身のTXA2合成経路が細胞死の過程に関与している可能性が示唆された。TXA2の細胞傷害作用がTXA2特異的レセプターを介したものであるか、否か現在さらに検討中である。TXA2合成経路の関与した細胞死というのは今までに報告がなく、この問題はさらに検討を要する新たな課題であろう。 今年度は今後マウスを用いた動物実験を行うための準備として、マウス血小板の効率のよい採取法を検討した。ヒトと同じ方法ではマウスの血小板は単離できなかったので、方法の改良を試み、効率の良い血小板回収法を確立することができた。
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