ヒトは食品の嗜好に関与する特性(ここでは香気を中心に考える)を即座に識別するが、これに代わる機器はまだ開発されていない。生体の化学感覚器官を単純にモデル化した半導体ガスセンサーシステムを構築し、ヒトの化学感覚に代わる客観的評価の汎用化に資する基礎データを得ることを本研究の主目的として以下のことを行なった。初年度は、半導体ガスセンサー応答の茶類香気評価への適用性を検討した。茶は、緑茶、ウ-ロン茶、紅茶など製法により風味がかなり異なる3群に大きく分けられ、さらに、その中で栽培種の相違等により風味が微妙に異なるものが多く市販されている。本研究では各群の茶について3種類ずつ代表的な茶を選び官能検査、香気成分のの科学的分析及びセンサー応答による各茶の識別を試みた。その結果、官能検査及び化学分析結果はよく一致し、両者とも各茶について細かく識別可能であったが、センサーでは、各茶群は明確に識別されたものの栽培種による微妙な差異については官能検査の結果と少し異なっていた。従って、センサーを香気の質の微妙な差異に応用するにはまだ検討の余地が多く残されていると判定された。次年度は、センシングシステムの自動化を図り、購入したパソコンを用いて試作品を作成した。これを用いて、茶にに比べかなり香気の弱い大豆臭について検討した。大豆は加工製品において豆臭が問題となるため、改良種であるリポキシゲナーゼ欠損大豆2種を用い標準大豆との識別を試みた。大豆の場合は、試料間の香気は質的な差というより、香気の強さに差異があったことより、官能的な識別とセンサー応答解折結果はよく対応した。本研究のデータは、微妙な質的差異の評価にはまだ多くの問題が残されているが、対象を選ぶことによりセンシングシステムによる嗜好特性評価が将来汎用化される可能性を示したと考えている。
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