本研究は、冷凍耐性酵母および冷凍感受性酵母の脂質組成ならびに菌体内トレハロース含量を比較することによって、酵母の冷凍耐性機構を明らかにすることを目的として行った。当研究室で分離した冷凍耐性酵母Torulaspora delbrueckii D2-4株から冷凍感受性変異株の誘導を試み、冷凍耐性の弱い60B3株を取得することに成功した。両菌株の脂質組成ならびにその構成脂肪酸を分析した結果、細胞膜主要成分であるリン脂質および中性脂質含量、ならびにリン脂質とステロールの量比に明確な相違が認められた。また、主要リン脂質のうちホスファチジルエタノールアミン含量にも両菌株間に差異が認められ、これらの相違が酵母の冷凍耐性を反映しているのではないかと推定した。一方、酵母の細胞内貯蔵物質トレハロースの含量と冷凍耐性との関連性を調べた結果、D2-4は60B3よりも菌体内トレハロース量が多く、冷凍耐性と菌体トレハロース量との相関が認められた。また、培養温度の変化にともなって、菌体中のトレハロース量と凍結後の生存率が変化し、菌体内トレハロース量に対応して酵母の生存率が変動した結果から、細胞中のトレハロースが酵母の冷凍耐性に密接に関連するものと推定した。市販圧搾パン酵母およびその培養酵母のパン生地中における冷凍耐性と菌体内トレハロース量との間には、必ずしも明確な相関は認められなかったものの、液内凍結にる生存率が細胞内トレハロース量とほぼ対応して増加した結果から、酵母の冷凍耐性に対する細胞内トレハロースの生理的役割が示唆された。
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