高齢者に対する温熱環境基準や好ましい冷暖房設備のあり方について提案するために、前年度に実施したアンケート調査、実態測定および人工気候室実験の分析を進めると共に、実態測定および人工気候室実験を追加し、収集した資料および既往の研究を総合的に検討した。 1.住宅温熱環境に対する青年・中年・高齢者の住まい方対応に関するアンケート調査では、高齢者の体質・体格や住宅の熱特性により冷暖房器具の使用や住まい方に違いがみられた。(1)夏季には高齢者の方が他の年代に比べ着衣量が多く、冷房器具としてはク-ラより扇風機の使用率が増加し、睡眠時の器具使用は減少する。(2)冬季には高齢者で着衣量が増え、暖房器具では高齢者・中年には開放式ストーブが使用され、青年では炬燵があげられ、睡眠時には中年・高齢者で寝床内暖房器具の使用が増加し特に高齢者で多く、トイレ回数も増加する。 2.高齢者住宅の温熱環境の実態測定では、特に冬季の温熱環境が著しく悪化し、暖房設備を改善する必要がある。(1)夏季の居間の平均室温は29℃程度で、寝室では27℃であり、通風や扇風機の利用が多い。(2)冬季の居間室温は15℃〜18℃と推奨温度より3〜5℃低く、寝室では8℃程度とさらに低く、多い着衣や炬燵で寒さに対応し、夜間のトイレ時には皮膚温が低下する。 3.高齢者・青年を被験者とした人工気候室実験では、高齢者の温熱環境に対する生理・心理反応の特徴を明らかにした。(1)夏季実験では高齢者は青年に比べ躯幹部皮膚温が低下するが、末梢部の変化が少なく安定するのに時間を要し、気温や気流の影響を受ける。(2)冬季実験から寒冷暴露時の高齢者の前額皮膚温は気温の影響により低下するが、下腿部では青年に比べ低下が少ないことから血管収縮機能の低下が示唆される。(3)推奨室温としては夏季には26℃〜29℃で、室温30℃では気流が必要であり、冬季には21℃〜25℃の室温が推奨され、放射暖房方式が望ましい。
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