ラット小腸粘膜のフィターゼ活性は基質であるフィチン酸の投与によって低下するが、これはフィチン酸が亜鉛の吸収を阻害することにより、亜鉛を必要とする酵素の活性が低下するのではないかと考え、フィチン酸投与による小腸のフィターゼ活性低下と亜鉛欠乏状態の関係について調べた。平成5年度には、成長中ラットにフィチン酸ナトリウム添加飼料(1%および2%)、または亜鉛欠乏飼料(飼料中亜鉛含有量3μg/kg)を投与し、骨中亜鉛が有意に低下したラットを得た。ラット小腸上部(1/3)の上皮粘膜から調製したホモジネートのフィターゼ活性は、フィチン酸添加飼料を投与したラットで低下したが、亜鉛欠乏飼料を投与したラットでは活性の低下は認められなかった。そこで平成6年度は、粘膜ホモジネート中の亜鉛含有量を測定し、小腸粘膜での亜鉛の栄養状態について調べた。さらに、アルカリフォスファターゼ活性を測定し、フィターゼ活性との相関について検討した。粘膜ホモジネート中の亜鉛含有量は、通常の飼料を与えたラットで0.241(μg/mg Protein)であったが、フィチン酸ナトリウム添加飼料または亜鉛欠乏飼料を与えて得た亜鉛欠乏ラットでも0.214〜0.286となり、粘膜中の亜鉛含有量には明らかな差が認められず、骨中亜鉛が有意に低下(欠乏が一番強いものでは通常群の約30%)しても、小腸粘膜中の亜鉛含有量は保たれていることが解った。また、粘膜ホモジネートのアルカリフォスファターゼ活性でも各群間に有意な差は認めらず、小腸粘膜の亜鉛含有量に差がなかったこととあわせて、フィチン酸投与によるフィターゼ活性の低下は亜鉛欠乏を介すものではないと考えられる。小腸の内容物から求めたフィチン酸の分解率は72〜79%でフィターゼ活性との相関は認められなかった。
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