ラット小腸粘膜のフィターゼ活性は基質であるフィチン酸の投与によって低下するが、これはフィチン酸が亜鉛の吸収を阻害することにより亜鉛を必要とする酵素の活性が低下するためではないかと考え、フィチン酸投与による小腸のフィターゼ活性低下と亜鉛欠乏状態の関係について調べた。成長中ラットにフィチン酸ナトリウム添加飼料(1%および2%)、または亜鉛欠乏飼料(飼料中の亜鉛含有量は3μg/kg)を投与し、骨中亜鉛が有意に低下した亜鉛欠乏ラットを得た。ラットの小腸は上部1/3の上皮粘膜からホモジネートを調整した。粘膜ホモジネートのフィターゼ活性は、フィチン酸添加飼料を投与したラットで低下したが、亜鉛欠乏飼料を投与したラットでは活性の低下は認められなかった。そこで粘膜ホモジネート中の亜鉛含有量を測定し、小腸粘膜の亜鉛の栄養状態について調べた。さらに、アルカリフォスファターゼ活性を測定し、フィターゼ活性との相関について検討した。粘膜ホモジネート中の亜鉛含有量は、通常の飼料を与えたラットでは0.241(μg/mg Protein)であったが、フィチン酸ナトリウム添加飼料または亜鉛欠乏飼料を与えて得た亜鉛欠乏ラットでも0.214〜0.286となり、粘膜中の亜鉛含有量には明らかな差は認められず、骨中亜鉛が有意に低下(欠乏が一番強いものでは通常群の約30%)しても、小腸粘膜中の亜鉛含有量は保たれていることが解った。また、粘膜ホモジネートのアルカリフォスファターゼ活性でも各群間に有意な差は認められず、小腸粘膜の亜鉛含有量に差がなかったこととあわせて、フィチン酸投与によるフィターゼ活性の低下は亜鉛欠乏を介するものではないと考えられる。小腸の内容物から求めたフィチン酸の分解率は72〜79%で、フィターゼ活性との相関は認められなかった。
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