研究概要 |
わが国の現行税制下において、世帯の負担している租税の種類は多く,世帯収入に対する租税負担率は決して軽いものではない。今後,高齢化社会が一層進展することによつて,世帯の租税負担率はさらに増加することが予想されている。このため,世帯にとつて税制から受ける影響は今後益々大きくなつていくことになる。 税制論議をする場合,担税者としての世帯の負担を考慮に入れることは欠くべからざることである。世帯の負担について言及する場合,一般的に平均値でものを言うことが多い。しかし,さまざまな世帯があり多様な生活状況が存在するため,全世帯の平均値だけでは実態と遊離した結果しか得られず,生活者の負担について誤つた見方がなされる可能性がある。したがつて,世帯の属性や生活状況ごとの分析結果を基盤にすることによつて,より負担の実態に沿つた形で論議し,考察することが重要であると考えられる。本研究では,こうした観点から,生活者の視点に立つた木目の細かい実態の解明を行い、担税者全体にとつてより望ましい税制を考える上での基礎資料を提示することを目的とした。 方法としては,まず、世帯の属性や生活状況ごとの家計収支等の実態について,総務庁「平成元年全国消費実態調査報告」を主な資料とし,補助資料を加えて分析した。これに現行の税制による各租税の負担率を当てはめて,世帯が直接,間接に納付している租税を推計した。その結果,同じ収入階級内にあつても,世帯の人員数,家族構成,ライフステージ,世帯主の職業,勤め先企業規模,世帯員の就業状況,住居の所有関係,住宅ローンの有無,居住地域などによつて負担税率が大きく異なることが明らかになつた。このため,世帯の実質の担税力および負担の公平という観点から見た場合,現行の税制には改良すべき諸点があることが判明した。
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