19世紀後半の欧米での、国立天文台や軍などの政府科学と大学やアカデミーでの科学制度、アマチュア科学としての新分野、気象、産業など社会的有用性という分野形成の文脈からみて、大学ではじめた数学、物理学、星学が一つであったことが日本の物理、天文分野形成の初期条件となった。今見れば地球物理学的研究だが、むしろ19世紀前半以来の「惑星科学」的なお雇教師による物理学科の伝統の形成を再検討し、主として物理学、地球物理学の出中館愛橘らと天文学・天体物理学の平山信、一戸直蔵らに注目して資料を調査検討した。まだ分析途中であるが、天体物理学創始者の一人アメリカのヤングの弟子のポールを星学教師に迎え、日本の第1世代は物理学と混在し、星学第1回卒業生平山信が天体物理形成の第3段階の時期に留学して、イギリスのハギンス、ドイツのヴォーゲルを通して、同時代的形成に参与していく過程を、この1890年代はじめ時点で、最初の天体分光学雑誌が購入されたことなどを天文台蔵書で確認し、また天体物理学の形成に主要な役割をはたした世界各地への日食観測遠征が日本に定着する様子を追った。親近的に見えるアメリカの形成過程との比較を含め20世紀に入ってアメリカに留学した一戸が帰国後におこなった分野形成の活動など、学会誌および出版物について比較検討し、その位置の変化を後づけている。 来年度に向けて、欧米各国の19世紀科学論文における物理学関係の論文の総体的検討や各国の学会・天文台史、日本の京大宇宙物理学講座や地球物理学会など制度的変化や装置の調査と、比較検討の対象の拡大も進めている。
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