骨格筋の血流は身体運動に伴い顕著に増大する。この運動性の血流増大現象(運動性高血流)は、主に骨格筋内での細動脈の代謝性拡張により生ずると考えられていた。しかし、筋内の細動脈のみならず筋への入り口に位置するfeeding arteryも筋内の細動脈に呼応して拡張することが明らかにされてきた。また、骨格筋内において、血流は血管の空間的配置や細動脈平滑筋の緊張の変化により空間的・時間的に不均一に分布することも知られている。運動性高血流の促進と筋内での効果的な血流の配分は筋への代謝基質の供給と筋からの代謝産物の除去に必須であり、特に持久性運動においては重要な課題であると考えられる。本研究の目的は、持久性トレーニングの負荷により骨格筋に生ずる流入血流量及び血流分布の適応性変動についてラットを用いて検討することであった。実験にはWister系のラットを用い、8-12週間に渡り持久性の走行トレーニングを負荷した。持久性運動負荷終了後、麻酔下で大腿動脈血流量、腓腹筋外側部及びヒラメ筋の組織血流量を測定した。大腿動脈の血流量は超音波トランジットタイム血流計により経時的に計測した。筋組織血流の測定には、水素ガスクリアランス法を用いた。血流の分布は、血流量の絶対値及び血流量の変動係数を用いて評価した。持久性トレーニングの結果、安静時の大腿動脈血流には有意な変動は認められなかったが、骨格筋収縮活動時には血流量の増大幅が減少する傾向にあった。筋組織血流量と血流分布に及ぼす持久性トレーニングの影響はヒラメ筋において顕著に認められた。ヒラメ筋では持久性トレーニングにより有意な組織血流量の減少と変動係数の増大が認められた。腓腹筋においては有意な変動は認められなかった。以上の結果より、持久性走行トレーニングは下腿筋群の血流分布に適応性の変化を生じさせ、大腿動脈の入力血流量にも影響を及ぼすことが示唆された。
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