成平成5年度と6年度において熟雄ラットに1日2時間の持久的水泳運動を6-12週間負荷すると、海馬体の錘体神経細胞に組織化学的・形態的な変性像が頻発すること、上述の持久的水泳運動を負荷したときの海馬体領域での細胞外液中のグルコース濃度および酸素分圧を運動中から運動後にかけて連続的に測定すると、運動終了後に、グルコース濃度と酸素分圧とも運動の安静レベルよりも約45%低い低グルコースと低酸素条件に数時間以上に渡って晒されることを明らかにした。これらの結果から、運動性神経細胞変性のメカニズムとして次の作業仮設を立てた。海馬体神経細胞が持久的運動負荷により低酸素・低グルコース条件にさらされる。この低酸素・低グルコース条件がNMDA(n-メチルd-アスパルテエイト)受容体を活性化すると、この受容体に連動したCaチャネルのゲートが開き細胞内Ca^<2+>濃度が上昇する。それがタンパク分解酵素の働きを活性化し、細胞骨格系の消化による細胞変性さらには細胞死を引き起こす。本年度の研究目的は、持久的水泳運動負荷により海馬体神経細胞内のCa^<2+>が上昇するか否かを調べることであった。成熟雄ラットを運動前、運動中、運動後の決められたた時間帯に急速凍結し、海馬体凍結切片を作成した。その後真空乾燥し、細胞内のCa^<2+>濃度を走査型電子顕微鏡に装備したエネルギー分散型X線分光器にて半定量した。その結果、細胞内Ca^<2+>濃度は、2時間の運動終了直前から運動後数時間に渡って安静時の値を有意に上回った。このことは、上述した作業仮設の一部を支持する結果と解されるが、電位依存性Ca^<2+>チャネルを介した系の関与も否定できない。
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