高血圧症の親をもつ子どもと持たない子供における静的握力発揮中と動的自転車作業中にみられる循環応答の相違について検討した。18-24歳における健康な女子大学生に、アンケート調査により、親(父、母のどちらかあるいはどちらも)が本態性高血圧症であり、本人自身は健康であり循環器を含め他の既往歴のない被験者16名と年齢・身長・体重の等しい被験者16名を選んだ。それぞれの被験者群を高血圧症の親を持つ実験(E)群と持たない対照(C)群とした。両群における被験者の座位安静時動脈血圧、推定体脂肪率、随意最大握力(MVC)、自転車作業中の推定最大仕事率(Lmax)には統計的有意差がなかった。25%MVCの負荷で4分間の握力発揮維持による静的運動中および漸増負荷自転車作業(Lmaxの20%、40%、60%、80%の4段階の負荷を各5分間ずつ計20分間)による動的運動中における、平均動脈血圧(MAP)、心拍出量(CO)、心拍数(HR)、前腕血流量(FBF)、前腕皮膚血流量(SkFBF)、酸素摂取量(VO_2)、換気交換率(RER)を計測し、両群間で比較した。その結果、次のようなことが明らかとなった。(1)静的運動中におけるE群とC群の循環応答は類似していたが、動的運動中における高負荷自転車作業中(60%と80%Lmax)には、両群間の循環応答に明らかな差が見られた。(2)高負荷自転車作業中には、同じエネルギー消費(VO_2)を要する同一負荷の運動であったにもかかわらず、E群はC群に比べ、有意に高い動脈血圧(MAP)の応答を生むことが示された。(3)E群にみられる高いMAPの応答は、総末梢血管抵抗(TPR)の上昇に起因し、特に腹部内蔵における血管収縮が著しいために生じたと推察された。これらの研究成果は、現在は健康であっても親が高血圧症である子どもは、高負荷の運動を行うと循環応答の違いが顕われることを示し、今後ますます増加すると考えられる高血圧症の子どもを運動負荷試験により早期発見する判定資料として活用できると考えられる。
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