埼玉県にキャンパスを持つ一私立文科系大学(D大学)において、大学生のAIDS予防教育に関する基礎的研究のための予備調査をおこなった。D大学は、入試の難易度や、学生の父母の属する社会階層等の条件を検討すると、我が国の大学生集団のなかでほぼ中堅に位置するものと思われる。したがってD大学の学生を調査対象にすることで、我が国の平均的な大学生のもつAIDSの疾病像や予防方法についての知識やその入手経路について、かなり正確に把握できるものと思われた。そこで本年度は、平成5年度D大学入学生約500名を対象に質問紙を配付し、AIDSについての基礎知識とその知識の入手経路について予備調査を行い、そのうちの一部について分析を行った。 AIDSはウィルス性疾患の中でも、感染力や感染経路について他のウィルス性疾患と異なる特性を持っているが、この点を十分理解できずに、AIDSウィルスの存在とAIDS感染の可能性とを直接に結び付けて考える傾向が見られた。たとえば、AIDSウイルスは患者の唾液の中に確かに存在するが、唾液による感染は通常の状態ではありえないとされている。しかし回答の中で、通常の接触では感染しないと考えているにもかかわらず、感染経路として唾液をあげる学生がかなりいることがうかがわれ、予防教育の中でも重要な感染経路と感染方法の把握について十分とはいえない状況がうかがわれた。また、質問は「YES」と「NO」の二者択一式の回答方法を採用したため、回答者がどの程度の確信をもって回答しているかが不明で、この点についても把握できるように質問方法を設定することが重要であると思われた。
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