本研究は、広域水道の導入と地域の水環境との関連を見ようとするものであり、その問題意識は、地域の水資源が市町村水道の自己水源として活用されているかぎり飲み水の源として真剣な環境保全努力の対象になるのに対し、市町村水道が水道用水供給事業=広域水道に依存するようになると、そういう保全努力の動機が失われて、地域の水環境の破壊が進むのではないか、ということであった。 本年度の調査によって、近年、ゴルフ場や産業廃棄物最終処分場の増加に伴い、これらによる水環境の悪化をおそれ、水道水源保護条例を制定する市町村が増えていることが分かった。一方、『水道統計』などの資料による分析によっても、水道用水供給事業への依存を強め、それと引き替えに地域在来の自己水源を放棄する市町村が、最近、加速度的に増えている。このことは、上記と同様の原因による地域の水環境悪化のおそれがあっても、このような条例制定などによる環境保全努力を促迫する動機の微弱な市町村が、そういう努力をしている市町村よりも、はるかに急速に増えているのではないか、という推測を生ぜしめる。 実際、本年度に訪れた広域水道導入市町村(山形県天童市、同県大江町、茨城県東村、滋賀県水口町)では、いずれも、かつての自己水源に関わる環境保全努力を全く行っていない。尤もこれらの市町村に限って言えば、放棄した自己水源に関して、それを水道水源として利用していた当時にも、特段の環境保全努力をしていたわけではないから、その放棄が水環境悪化の要因になったと断定することはできない。しかし、放棄以前は行っていた水質調査を放棄以後は行わなくなっているから、管理が弱まったことは事実である。また東村では上述の問題意識とは逆に、在来水源の著しい汚染が、広域水道導入の最大の理由となっていた。
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