市町村水道が「近い水」=近在の自己水源に依存する限りその水源は真剣な環境保全努力の対象となるのに対して、市町村水道が水道用水供給事業=広域水道=「遠い水」への依存を強めるにつれて「近い水」に対する環境保全努力は弱まり、地域の水環境破壊が進むのではないか、というのが本研究の問題意識である。 水道統計のデータを整理してみると、水道用水供給事業の施設能力は、とくに1984年以降、急速かつ断続的に増大し、以後、全国で 150の事業体(その殆どが市町村)が新たに広域水道に依存するようになっているが、このなかの少なからぬものが従来の自己水源を全廃したり、そこからの取水量を大幅に減らしていることが分かる(詳しくは森瀧「水需給と河川環境」『地理科学』49-3 1994年7月を参照のこと)。 なぜ自己水源を放棄してまで広域水源に依存するのか。現地(本年度は山形県村山市・寒河江市、佐賀県諸富町・佐賀市、新潟県柿崎町、兵庫県吉川町)での聞き取りによれば、広域水道への加入は当該市町村の要求に基づくよりも、県当局の慫慂によるところが大きい。ゴルフ場や産業廃棄物処分場の増加による水環境の悪化の脅威に対応して水道水源保護条例を制定する市町村が増え、それを受けて国レベルでも1994年2月いわゆる水道水源2法が成立したが、市町村水道の自己水源がこのように放棄されていくなら、折角のこれらの条例や法律も、その汚染に対する抑止力を発揮しえないことになる。現に訪問した市町(いずれも広域水道への依存度が高い)では、このような条例制定の動きが全くみられなかった。放棄された自己水源について条例以外の方法による環境保全の努力も全く払われていない。ただ今のところ、自己水源として利用していた時期と比べて、そこの水質環境が実際に悪化したかどうかについては、明らかにしえなかった。
|