従来の農業地域形成において関する研究では、地域に内在する諸条件とそれらの相互作用関係に重点がおかれ、それらと地域外に存在する諸条件との関係についての分析は十分でなかった。農業地域形成における地域外の諸条件のなかでは、労働市場・食料消費地・生産資材の供給地(都市)と労働供給地・食料生産地・生産資材の需要地(農村)との直接的、間接的な地域結合が注目されており、本研究はそのような都市-農村の水平的な地域結合が農業地域形成に果たす役割を実証研究に基づいて明らかにすることを目的とした。 都市-農村の水平的結合の最も一般的な形態は労働力を媒体とするもので、それは大都市近郊や近郊外縁部の農村における兼業化に反映されている。これらの地域の一部では、農村や農業の組織を持続的に維持するため、土地や物を媒体とする都市-農業の水平的結合が機能している。土地を媒体とする交流では、都市住民が農村の土地を借り受けて農業生産と農村生活を余暇活動として楽しむものもあれば、農家が借地耕作により経営規模を維持して集約的で高度な野菜生産や酪農経営を行うものもある。また物を媒体とする交流では、産地直送販売や契約栽培が特定の商品生産を個別の産地に発達させたり、生産資材への近接性が自立酪農地域の成立に大きく寄与したりしている。いずれにせよ、都市-農村の水平的結合がさまざまな環境変化に対して農村や農業の組織を補完する方向で作用し、農業や農村の自立化と持続化において重要な役割を果たしていることがわかった。さらに、関東地方における都市-農村の水平的結合を空間的に概観すると、大都市近郊ではさまざまな結合関係が補完的に混在し、大都市近郊外縁部では土地を媒体とする結合関係が中心となり、さらに大都市遠郊では農産物や生産資材を媒体とする結合関係が主体になっていた。今後に残された課題は、さまざまな場所や時代における都市-農村の水平的結合関係の様相を一般化することである。
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