高齢者は、生産年齢層に比べて、身体的・精神的な衰えがあるために、一般的な日常生活行動の概念としては、行動範囲が狭く、消極的生活様式をもつ都市居住者との認識がある。 高齢者は、移動手段が主として徒歩であるため、その日常的生活圏域は、狭小になり、行動範囲が狭く見える。これは、歩行という移動手段の特性で、地理的距離が短くなったためである。しかし、この地理的距離により形成される歩行空間は、高齢者の運動能力面からみると、かなり大きな運動量になる。身体的・精神的にハンディを内在させている高齢者にとっては、運動能力面からみると、適正のある生活空間であるといえる。 今回、解明されたことは、いわゆる「一様に縮小していく日常生活圏域と消極的な居住特性を持つ」という一般的認識が社会通念化している中で、高齢者は、移動可能な領域をフルに活用した日常行動をとっており、生活意識も「明るい」「楽しい」「快適」という生活に対する能動的な積極性のあるものであった。 高齢者の行動領域には個人差があるが、ある特定の目的に対しては、拡大していく傾向が認められた。高齢者に日常生活圏域は、一度に縮小するものではなく、縮小と部分的拡大を交互に繰り返しながら、次第に縮小していくと考えるのが、実態を反映しているといえる。 つまり、高齢者に適応した生活環境を形成していく場合に重要なことは、高齢者自身に内在している地域社会に対する能動的・積極的な意識と意欲をかきたて、外出行動を起こさせるようなまちづくりと、魅力ある社会体制・制度づくりが必要である。
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