本論は、現代美術の動向を踏まえ、自然を代表する木という存在を通しての工芸学習・教育の模索を行ったものである。 現代美術は、表現方法、提示の場・思考を拡大しつつ、その創造の意義を人自らの内側での生成に向け躍動している。その潮流のなか、工芸の独自性はその歴史上常に意識されてきた自然とのかかわり方に求めねばならない。工芸を自然及び自然物への巧みなる行為・思惟として確認すべきである。美術はその特性としての思考・探求・表現の力の育成において、今後の生涯学習の基柱として位置付けられるものである。特に工芸は、今日伝えられている自然遺産・文化遺産との関係の上からも感性による心象の深さと巾の自由度の高いものとして重要な存在である。 天然という言葉が自然という言葉に置き換えられ、その背景にある意識の変化は、現代文明の突き進む慣性力への危惧を想起させる。自然は古より私たちの美意識を根底より支えてきた。そのことは、日本の絵画の歴史、工芸の発展と伝承を見ることで明らかである。自然の代表としての木をその対象とする木工芸を通し、感性による接触と現代の知による解析との繰り返しによる認識は、生涯学習が求める自らの存在への確認を推進し得るものである。 今一度、工芸の学習・教育をその主題・素材・技法より捕らえ直しそれぞれを起点とする発想の可能性を探る時、考えながら作る、作りながら考える、思考・探求・表現の往復による創造の世界を広げることができる。その際、自然素材としての木を象徴性・地域性・物性・表現・形状より全体に捕らえ直す必要がある。又、技法においては、方法と用具とに分け、方法の単純化による発想の広がりを探ることができる。身近な自然としての街路樹等の枝を用いた具体例を各視点より求めて提示しておく。
|