精神遅滞児のバランスの問題と視覚機能との関連に焦点を当てた検討を行った。具体的には、眼球運動機能と視野機能について、前者に関しては、反射的な眼球運動である視運動性眼振と随意的な眼球運動である追従性眼球運動及び衝動性眼球運動の測定を行い、後者に関しては、視野情報を統制しての身体動揺の測定を行い、これらの成績と平均台歩き、片足立ちといったバランス運動との関連を調べた。視運動性眼振の測定は刺激の強度及び速度を変化させて行ったが、その結果、精神遅滞児では健常児や成人と比較して周辺視野刺激に対する定位が十分でなく、また追跡可能な速度が低いことがわかった。また、追従性眼球運動及び衝動性眼球運動についても、基本的に視運動性眼振と同様の問題が精神遅滞児に存することが確認されている。こうした眼球運動機能に問題をもつ精神遅滞児は一般にバランス運動にも問題をもつことが示された。なお、これらの測定は健常児及び成人にも行ったが、視運動性眼振に関して健常児と成人の差が単調増加的な機能向上で説明できず、眼球運動及び視野機能の発達が複雑ないくつかの機能のダイナミックな関連による可能性が示唆されている。一方、視野情報を統制しての身体動揺の測定からは、精神遅滞児には視覚情報を身体動揺のコントロールに適切に用いることができない者が少なからず存在することが明らかとなった。また、精神遅滞児は一般に動揺が大きく、それが日常的なバランス運動との問題と結びついていることが示されたが、中には動揺量自体は小さいが、平均台歩きや片足立ちという日常的なバランス運動がきわめてまずいという者がダウン症候群で見出された。これは従来の研究では注目されていない点であり、今後動揺の周波数成分等に関する詳しい検討が必要である。
|