視野情報を統制しての身体動揺の測定を健常成人、健常幼児、及び精神遅滞児を対象として行った。身体動揺の計測はこれまでは、足底圧の変化を身体重心の変化としてとらえる装置により行ってきたが、動揺の大きい者はバランスがわるく、動揺の小さい者はバランスがよいと真に言い得るのかどうかという機能的な意義が今一つ明確でなかった。というのは、一般にバランスがわるいと言われ、また、我々のこれまで行ってきた平均台歩きや片足立ちというバランス運動の成績も確かにきわめて低いダウン症候群児の重心動揺がかなり小さいという、通常考えられる重心動揺の大小とバランスとの関連からすると矛盾する知見が得られていたからである。そのため、本年度は、足底圧の変化より身体動揺を計測するのではなく、機能的意義の明確な頭部動揺の測定を行った。すなわち、頭部動揺は頭部の保護・安定という観点からすると、それが小さければ小さいほどバランスはよいと言い得る。健常成人、健常幼児では、身体重心動揺と同様の年齢とともに動揺が小さくなっていくという結果が得られ、精神遅滞児では、臨床型ごとに見ると、ダウン症候群児では、他の精神遅滞児と比較してかなり動揺大きいという結果が得られた。このことは、彼らの重心動揺がかなり小さいというこれまでに得られている知見と重ねあわせて見ると、ダウン症候群児は逆振り子様に身体が動揺していることを意味する。これは、きわめて非機能的な動揺で、彼らのバランスがきわめて低いという事実と合致するものである。眼球運動機能については、引き続き視運動性眼振の測定を行った。精神遅滞児について、臨床型別に見ると、ダウン症候群児については視標の追従機能の未熟性を、自閉症児については注意や動機の問題を示唆する追跡自体の不成立を示唆する結果が得られた。その他、平均台歩き、片足立ちについては、なすべき課題を明確に示す外的な手がかりが存在する事態でそれを行うことがバランス能力の改善につながるというこれまでに得ている知見を確認した。
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