研究概要 |
本研究は、「繰り返し」(自らの発話を繰り返す「自己反復」と相手の発話の一部を繰り返す「エコー反復」)についての実証研究である。収集した日本語と英語の会話データ(約11時間)を「繰り返し」の機能カテゴリー(Kobayashi & Hirose,1995)に基づき分析した結果、以下の三点が明らかになった。(1)日本語話者と英語話者の比較では、英語話者の方が「自己反復」をより頻繁に使い、特に、思考の言語化プロセスや発話上の訂正にその使用が多く見られたが、日本語話者の場合には「自己反復」に代わる他の方法(例、ポ-ズの一種である「こそわど」語や母音の引き伸ばし)の使用が頻繁であった。この違いは、主に日米語統語構造上の相違から生じていると考えられる。一方、「エコー反復」に関しては、日本語話者による使用頻度が非常に高く、特に、「あいづち」の一種として、または賛同や理解を示すための「繰り返し」の使用が際立った。(2)「繰り返し」が第2言語学習者特有のものかどうかについては、日本語と英語の頻度の差はあるもののその傾向を顕著に示した。特に、思考の言語化プロセスや発話の文法的修正を行うために学習者は「自己反復」を母語話者よりも頻繁に使用した。しかし、「エコー反復」に関しては、日本人英語学習者が米人英語話者よりも頻繁に使用する傾向を示したのに対し、米人日本語学習者と日本人日本語話者と間には大きな差は見られなかった。日本人英語学習者は日本人の会話スタイルの特徴を英語に転移していると考えられ、また米人日本語学習者は、日本人の会話スタイルを習得しつつある段階ではないかと推測される。(3)課題の難易度と「繰り返し」の関係については、難易度の高い会話トピックの場合、母語話者も学習者も思考の言語化プロセスや発話の訂正のために「自己反復」を多く使用したが、難易度が低く会話者同士の協力が必要とされるような会話トピックでは相互作用を円滑に進める「エコー反復」を頻繁に使った。 本研究の結果、(1)「繰り返し」の頻度と機能は使用言語と大いに関連している、(2)「繰り返し」は第2言語学習者に特有な言語行動である、という点が明らかになった。教育的示唆としては「繰り返し」は外国語運用や会話管理のためのストラテジーとして有効であること、また「話す」訓練において学習者に与える課題はこの二つの側面を考慮して選択することが重要であるという点が挙げられる。
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