本研究は、日本語学習者が、音声テキストのどのような部分で、聞き損なってしまうのか、ディクテーションに見られるから誤り部分を、聴解行動の実態の一側面として明らかにしていこうとするものである。 ディクテーションは必ずしも学習者の聞き取り状況を正確に反映しているとは言えない。意味を理解したにも関わらず、表記で失敗する場合も多い(濁音や促音)し、逆にディクテーションができているといって、その部分の意味を理解したとは言い切れない。しかし、誤聴解の実態を見える形で示してくれるものとして貴重な資料と考える。聴解のような理解の過程でのつまずきは何等かの方法で顕在化させなければ、第3者は知りえない。 これまでに4〜5分の音声データのディクテーション6種類、延べ173名分をデータとして入力し、一部の誤り抽出データについて、今後のデータベース化に向けて音声環境の検討及び文法項目の検討をおこない、以下のようことが分かった。 1)音声データそのものを物理的に観察すると、音声の途切れるところが意味の区切れであるとは全く言えず、学習者の誤聴解も、色々な単位にまたがって出現している。 2)音声環境の傾向では、連結母音、無声化、特殊拍、助詞の連結に誤りが多く見られる。またr/t/kの聞き取りに失敗が多かった。 3)文法学習の困難なもの、授業で教えられる機念の少ない話のことばを聞き損なっている。いずれも気持ちを表現する部分、例えば、取り立て助詞、文末のム-ド・アスペクト部分、修飾部のヨウナ、コンナ、などが目立っている。 これのデータベースの実用化は今後の作業を待たねばならないが、中間報告の形として、また、日本語教育関係者の資料として役に立つよう、上記173名のディクテーションを資料集として作成した。誤りがどのような部分に集中しているのか、見ることができる。
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