1.意味論的特性の確定:日本語の「不平、不満」、英語の〓complain(T)〓を取り上げ、選択的関係、統合的関係からの意味論的分析を行なった。その結果、「不満」が感情・感覚、態様語として扱われ、所有の対象となるのに対して、「不平」は、「不満」の存在を前提とした事象語として扱われ、所有の対象とならないことが明かになった。英語〓to complain〓は「不平」「不満」の峻別を行わないことも明かになった。 2.語用論的特性の確定:「不平」は動詞「言う」との連結性が高く、この連結が一つの発語内行為を形成すること、英語では〓to complain〓が発語内行為として機能することが明かになった。「不平・complaint」(以下単に「不平」とする)には、直接的なものと間接的なものが存在する。前者は、話者が「あるべきでない状況」と認識する状況(「不快状況」)を引き起こした当人に対して向けられるのに対し、後者はこれ以外の者に向けられるものである。また、前者は、典型的に「行為要求」という形態を取り、「生起した状況を元に戻す」という発語媒介意図のもとに、後者は、「同意・同情を得る」という発語媒介意図の元に遂行される発話行為と考えられる。 3.「不平・complaint」の談話分析:「不平・complaint」に対する応答に焦点を当て、基礎的な談話分析を行なった直接的な「不平」と間接的なものとの間には、語用論的特質の差異に起因すると思われる談話機能の差が存在することが明かになった。即ち、直接的なものは典型的に、A:「不快状況の生起」、B:チャレンジ(=「不平」)、A:対処〓account〓(「受け入れ」または「拒絶」)というやり取りに現われ、間接的なものは典型的に、A:「不平」、B:「同意+同一・類似の不平」という儀礼的な「不平」のやり取りに現われることが多い。
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