研究概要 |
近年の平均計算量の解析においては、複素解析や積分変換などが導入され、その解析技法は著しく発展しつある。また、計算複雑さの理論においても、平均計算量に基づく新しい理論が構築されつつある。いずれの場合も、最も重要なのは、入力モデル(入力分布、確率モデル)を適切に定めることである。すなわち、実際的な意味でのアルゴリズムの性能をよく反映し、しかも、解析が可能であるようなモデルを見つけることが重要である。本研究の目的は、平均計算量の解析技法をさらに展開するための基礎的研究として、幾つかの重要な離散構造問題について適切な入力モデルを探すことである。 本研究では、まず、知られている平均計算量解析技法のサイーベイを行なった。これについては準備がととのいしだい発表する予定である。このサーベイの一環として、Handbook of Theoretical Computer.Science,Vol.A,Elseveir Science Publishersの第9章(アルゴリズムとデータ構造の平均計算量解析)の翻訳をおこなったが、それは「コンピュータ基礎理論ハンドブック」(丸善)として刊行された。 次に、NP完全問題としてよく知られている充足可能性問題およびグラフの頂点被覆問題をとりあげ、これらの問題の平均的な性質を調査した。これらの問題を解くアルゴリズムとして、分枝限定法に基づくものと遺伝子アルゴリズムに基づくものを作成し、種々の入力モデルについて計算機実験を行ない妥当性を検討した。この結果、実際的な意味でのアルゴリズムの性能を反映する有力な入力モデルが得られ本研究の初期の目的を達した。設備備品として購入したワークステーションは上記の計算機実験に使用された。また、この上に数式処理システムを導入し理論解析の補助としても用いた。
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