本研究の目的は、人工知能研究において最近進展の著しい機械学習理論を用いることによって、組織行動の分析に適用可能な新たな分析手段を提供することである。ここでいう組織とは、企業や社会、生命体の群、あるいは、複合した分散システムのように各個体が自律性を持ちながら行動しつつも、その行動自体がなんらかの意味をもっているような集団を意味する。 経営学・社会学における組織行動の研究においては、従来、企業行動のケーススタディを中心とした研究、もしくは、統計学手法に基づく計数的な研究がなされていた。本研究のアプローチは、これらの手法とは異なり、記号による対象の記述と厳密な理論展開に加えてプログラムの実行という形態でのシミュレーションによる検証が可能である。 本研究の成果は以下の4点にまとめられる。 ・組織行動の分析に利用できるフレームワークの確立を指向したこと。 ・分散人工知能の立場から知識集約型の学習における諸概念を拡張し、複数の構成主体による知識集約型の学習の概念に基づいて定式化したこと。 ・組織科学と分散人工知能に関する近年の研究成果に基づいて、組織行動を分析するための計算モデルを提案したこと。 ・提案する方法論の有用性をシミュレーションの実行により検証し、機械学習理論の適用の妥当性を確認したこと。 本研究の成果を援用することにより、日本的な組織行動の諸概念が、計算機上で記述できそれを用いたシミュレーションが可能となると考えられる。また、この成果は分散型知識システムや、Computer Supported Cooperative Work(CSCW)、あるいは、経営組織論における組織の問題解決などに共通する諸問題のモデル化に適用可能である。
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