研究概要 |
道路,航空,海上を問わず,従来の交通事故分析は事故発生率と個々の要因の関連を統計的に整理したものが多く,事故と諸要因との「相関関係」を見出しこそすれ,「因果関係」を抽出するものではなかった。本研究は,このような認識に立ち,事故発生の因果関係に基づく効果的な事故防止対策の策定に資するため,交通事故の発生構造を同定する方法論を開発すべく実施したものである。 本研究では,実際に発生した交通事故を事故の発生構造の一部が発露したものとみなし,個々の事故記録を整理することにより,発生構造を把握することができるものと考えた。分析の基礎となる事故記録が備えるべき要件は,事故に至る種々の時点における当事者の認知内容や判断,事故回避操作が,交通環境,気象条件等と対応づけて詳細に記述されていることである。そして,これらを「事象」としてとらえ,時間の経過に沿って事象の関連を整理することにより同定法を構築した。この方法は,(1)事象系列の抽出,(2)論理ゲートによる事象間の因果関係の記述,(3)部分構造の重ね合わせによる統合化,の3つのプロセスから構成されている。 今年度は,船舶の海上衝突事故記録と航空機の地上滑走時衝突事故記録を収集した。前者については,既に収集済みの海難審判庁採決録に加えて同庁事故事例検討会がとりまとめた詳細記録を収集し,後者については,連邦航空宇宙局のデータベースに収められている滑走路進入事故記録を収集した。これらを基に上述の方法に沿って原因事象の抽出を行ったところ,事故当事者,周辺交通状況,自然環境,関連機器といった帰属主体別,あるいは情報交換ミス,バックアップ体制の不備といった機能別の比較的少数のグループが認められ,事故防止対策に結びつくいくつかの有用な知見が得られた。
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