研究概要 |
真空紫外及び軟X線領域に適用できる多層膜回折格子を製作を行い、その特性を測定した。製作方法は次のようである。まず、超精密研磨したSiO_2基板にホログラフィク露光法により矩形波状の溝をエッチングする。これによりラミナー型の回折格子を製作した。溝本数は1200/mmで、軟X線用であるから溝深さh=100Åの浅いものを製作した。これに超高真空電子ビーム法により白金/炭素のペアー(膜圧d=50Å)を10層蒸発した。このようにして多層膜面に基板の回折格子の溝形状を反映した。 反射率の測定は放射光を用いて行った。光エネルギーEは1.2keVから2.8keVであった。ブラック領域における回折光の+及び-1次光の最大反射率(その時の入射角)は次のとおりである。E=1.2keVで1.8%(84.3°)、E=1.7keVで2.1%(85.7°)、E=2keVで1.3%(86.7°)、及びE=2.8keVで1.5%(87.8°)であった。これより多層膜のない通常の回折格子では反射がほとんどない入射角で、さらに極端な斜入射が必要な全反射域のそれらと同じ程度の反射が得られた。 多層膜回折格子に対するマックスウェルの式による解から反射率を求めるため、従来の理論を改良して計算を行った。この結果多層膜の膜圧と刻線溝の深さに適当な関係をもたせれば、溝上面と下面からの回折光の干渉により大きな反射率が得られることが分かった。例えば、Pt/Cで2d=100Å,N=20でh=120ÅではE=1.2keVで-1次光で25%となる。 以上の研究結果より、多層膜回折格子は軟X線領域での新しい分光素子として反射率、分解能、耐熱性などから大いに期待できるとの結論を得た。
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