これまでレジスト材料である典型的な高分子薄膜に対する高エネルギー・イオンビームによる照射効果の研究を行い、高分子の主鎖切断、架橋、分子脱離などの現象に対してγ線や電子線照射では見られない著しい線質効果を生成物分析により見いだした。しかしながら、それらの現象の発現機構は生成物分析のみでは不明な点が多く、機構解明には照射中の発光の測定や放出される2次イオンや原子分子などの質量分析が必要であり、発光については時間分解波長スペクトル及び発光寿命などの測定を行い、過渡的な生成物(励起状態、ラジカル等)についても著しい線質効果があることがわかってきた。 本研究では昨年度、主にポリシラン高分子薄膜に対する高エネルギー・イオンビーム(1〜20MeVの陽子、ヘリウム)の照射を行い、生成物分析、光伝導度の測定や照射中に放出される光スペクトル(可視〜紫外)の時間変化を調べ、照射によって過渡的に分解、生成する励起状態やラジカルの挙動を研究した。生成物分析からだけでなく、このような過渡的な測定結果にも線質効果を見いだすことができた。 平成6年度は引き続きポリシランに対するイオンビームの照射効果の研究を行った。特に今年度は極低温照射装置を導入し、室温から30Kの極低温まで試料の温度を変えたイオンビーム照射が可能となった。この装置を用いて以前よりイオンビーム照射で問題となっていた試料のビーム照射による熱効果についてポリジヘキシルシラン(PDPS)を用いて、色々な温度における発光スペクトルを測定した。その結果、イオンビームによる熱効果は小さいことがわかった。また、PDHSは42C付近で構造変化を起こすがイオンビーム照射によってもその前後で発光スペクトルに著しい変化が現れることがわかった。照射効果の温度依存性を調べることで、この分野の研究が飛躍的に進むものと思われる。
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