本研究では、確率的破壊力学を援用することにより、高速増殖炉における液体ナトリウムの高サイクル温度変動に起因する熱疲労現象、いわゆるサーマルストライピング現象における原子炉構造部材の残存寿命分布に対する理論的な考察を行った。得られた主な結果は以下の通りである。 1.応力緩和係数の概念を導入することにより、多数の縁き裂が存在する場合の応力場ならびに応力拡大係数を近似評価する手法を提案し、これに基づいて熱疲労き裂群の不規則成長を記述する確率モデルの構築を行った。この結果、き裂間隔が極めて短い場合には応力緩和の効果が強く現れて残存寿命分布は長寿命側に移行すること、き裂個数の増加は短寿命側への移行を引き起こすが、き裂個数が15を超えるあたりから寿命の短縮は頭打ちとなること、などが明かとなった。 2.広帯域型温度変動スペクトル下での不規則き裂進展問題を解析するために、上述の確率モデルを応力拡大係数の局所的な期待値に着目して拡張する手法を提案し、サーマルストライピング現象に対する理論解析を遂行した。この結果、温度変動スペクトルのバンド幅の増加は残存寿命分布を短寿命側に移行させることが判明した。また、実際の高速増殖炉におけるナトリウムの温度変動スペクトルに関するデータを収集したところ、スペクトルは必ずしも狭帯域型とはならないことが判明したため、一般のスペクトル形状に対応し得る理論解析手法を開発できたことの意義が実用的観点からも確認されたことになる。 3.内表面温度の変動に関する種々のパラメータが残存寿命分布に及ぼす影響を調べ、特に高信頼度領域での影響度を定量的に評価することができた。この結果、内表面温度のスペクトル形状は極端に広帯域とならない限り影響度は小さく、き裂進展のランダムな特性は主に材質の微視的不規則性に支配されることが明らかとなった。
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