厚さ3mmのSUS316板試験片に深さ1mmの表面予き裂を導入し、曲げ拘束の条件のもとで電子ビーム(EB)の繰り返し照射(EB照射0.5sec 冷却29.5sec)を行ない、照射によるき裂の伝播量Δaと試験片側面での温度変化ΔTを計測している。同時にEB照射面の温度を直接測定すべく放射温度計による計測を試みている。放射温度計の応答特性は良く、0.5secの照射時間中の温度上昇を時間遅れなしで測定できる。しかし、測定誤差が相当に大きくて、10℃程度あると思われ、温度の正確な値の決定に使うのは難しいようだ。一方数値計算は汎用計算機コードABQUSを使い、非定常熱伝導解析を行って温度変化の分布を求め、この結果を使って熱弾塑性応力解析により応力分布の時間変化を決定する。き裂先端近傍における応力の時間変化からJ積分の1サイクルの間の変化幅ΔJを求めることができる。以上からΔa/ΔN(N:繰り返し数)とΔJとの関係が試験片厚さ方向に伝播するき裂にたいして得られた。この結果は、ステンレスの疲労き裂伝播実験から得られているデータに上で求めたΔJを代入して推定されたΔa/ΔNとき裂長さが1mm-1.5mmの範囲で非常に良い一致をみた。すなわちこのき裂長さの範囲内ではEBの繰り返し照射による亀裂の伝播は数値計算によってほぼ正確に予測できる。しかしき裂長さがこれ以上に大きくなると数値計算の結果はより大きなき裂伝播量を与え、安全側の予測となる。これは亀裂が深くなると試験片厚さ方向よりも試験片表面に沿っての方向にき裂が伝播しやすくなるためである。現在試験片表面に沿ってのΔJをどう評価するか検討中である。また、き裂の浅い場合のき裂伝播挙動も興味あるところであり、実験したいと考えている。
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