本年度は、二酸化マンガン析出(マンガン(II)イオンの電解酸化)の際の共存多価重金属イオンの取り込み挙動を調べた。取り込み量は溶液濃度およびイオンの吸着親和性に比例する。これから、生長しつつある酸化物粒子表面への吸着を経て粒子内部へ取り込まれるモデルを提出した。さらに、リチウムイオンのサイズに適合した鋳型と呼ばれる空孔を構造中に持つスピネル型マンガン酸化物へのリチウムイオンの選択的取り込み挙動を調べた。取り込み速度は、リチウムイオン濃度の増加に対し定常値に漸近するように増加、溶液pHの増加に対しては指数関数的に増加する。これを次の二つの素反応を考えてモデル化した:(1)格子マンガン(IV)による水酸化物イオンの酸化に伴う格子空孔の励起と、ある割合でのその逆反応、(2)励起空孔へのリチウムイオンの取り込みの二つの素反応を考えてモデル速度式を導出した。地中の一般的な金属酸化物粒子表面へのイオン吸着については、モデル平衡定数から、酸化物格子金属イオンの電気陰性度の増加とともに陽イオン交換(酸解離)は増加、陰イオン交換(塩基解離)は減少することを見出した。これから、格子金属イオンの電気陰性度が大きいほど水酸基の電子密度が小さくなるため、水素イオンの放出は容易、逆に水素イオンの取り込み(水酸化物イオンの放出)は困難になるものと結論した。 他の地中成分である粘土鉱物、フミン質などへのイオン吸着のモデル化は行えなかったが、本研究で開発した金属酸化物のモデルはこれらの成分についても適用可能と考えられ、今後の研究課題とする。
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